特集 介護保険元年
MEDICO VOL.31,No.3,2000より抜粋

介護保険と特定疾病

櫻井 孝* 遠藤英俊** 横野浩一*
*神戸大学医学部老年科 **国立療養所中部病院内科 


はじめに

 介護保険制度において40歳以上65歳未満の第2号被保険者が要介護認定を受けるためには、要介護状態の原因となった身体および精神上の障害が政令で定められた15の疾病(特定疾病)によることが要件とされている。
市町村に置かれる介護認定審査合は、主治医意見書に記載された診断名やその診断根拠に基づき、特定疾病に該当していることを確認する。
そのため特定疾病の診断根拠については、主治医意見書の「1.傷病に関する意見(1)診断名1.」「(4)障害の直接の原因となっている傷病の経過及び投薬内容を含む治療内容」に明記される必要がある。
15特定疾病については厚生省よりその診断基準が示されており、
((http://www.mhw.go.jp/)、主治医は各々の診断のポイントを参考とし意見書に記載することになるが,特定疾病のうちいくつかは神後難病や整形外科疾患であり、診断に苦慮するケースも実際には多いものと思われる。
このような場合には専門医に相談することを勧めたい。
主治医意見書の作成には多くの時間を要し、多くの高齢患者をみている医師にとっては負担が大きいが、一方で意見書を作成することは、患者や家族と主治医としての契約を意味しており、さらに医務のみならず患者に携わる介護、福祉関係者が患者の全体像を理解することにも役立ち、より効率的な支援や指導が期待される。

そこで以下に15の特定疾患の診断のポイント等について概説を試みる。


1.初老期の痴呆(アルツハイマー病,脳血管性痴呆等)

1)
 

アルツハイマー病
初期の主症状は、記憶障害で、意欲の低下、時間に関する見当識か障害される。中期には記憶の保持が短くなり、薬を飲んだことを忘れたり、トイレがわからなくなったり、失禁状態に陥る。

2)

脳血管性痴呆
  初発症状として物忘れで始まることが多いが、一般に判断力は保持されており、人格の崩壊は少ない。深部腱反射の亢進、仮性球麻痺、パーキンソン症候などの神経徴候を伴うことが多い。

 

2.脳血管疾患(脳出血脳梗塞等)

1)

出血群
  脳出血、も膜下出血、その他の頭蓋内出血に該当し、診断にはCTによる血腫の証明が必要である。

2)

脳梗塞症
 
(神経症候を有する脳梗塞が該当し、無症候性脳梗塞は含まない)

  脳血栓症、脳塞栓症、分類不能の脳梗塞に分類きれる。

 

3.筋萎縮性側索硬化症

 発病は40〜60代が多く、大部分は孤発例。
症状は球症状(舌の麻痺・萎縮、筋線維束佳収縮、構語障害、嚥下障害)、上位ニューロン徴候(痙縮、深部反射亢進、病的反射の出現)、下位ニューロン徴候(筋線推束性収縮、筋萎縮、筋力低下)を認めるが、他覚的感覚障害、眼球運動障害、膀胱直腸障害、褥瘡は原則として末期まで認めない。

4.パーキンソン病

 診断は毎秒4〜6回の安静時振戦、無動・寡動(仮面横顔貌、単調な話し声、歯車現象を伴う筋固縮)、姿勢・歩行障害(前傾姿勢、突進現象、小刻み歩行、立ち直り反射障害)など特有の症状と、他のパーキンソニズムを起こす疾患の除去に基づく。
抗パーキンソン病薬による治療により、症状に明らかな改善がみられることも鑑別上重要である。

 

5.脊髄小脳変性症

孤発性ないし家族性で発症する進行性小脳失調症の総称(以下の8疾患に該当)。

 1)オリーブ橋小脳萎縮症(OPCA)
  30〜50代発症がほとんどで、本邦で最も多い脊髄小脳変性症の一型である。歩行障害、発語障害が早期に現れ、進行に伴い錐体外路障害、自律神経障害(排尿障害や起立性低血庄など)を合併する。
画像検査で第4脳室の拡大、橋底、小脳の萎縮を認める。
 2)皮質性小脳萎縮症(CCA)
  中年以降に発病し遺伝性はない。症状は小脳性運動失調が前景に現れるが、パーキンソン症候、自律神経症状が出現することはほとんどない。
CT・MRIで,小脳萎縮を認めるが、脳幹萎縮は認めない。
 3)Machado−Joseph病(MJD)
  常染色体性優性遺伝を示す。歩行失調で始まり、四肢腱反射の亢進、眼振、言語障害を伴う。第14染色体長腕に遺伝子座をもつMJDl遺伝子内の異常が明らかになった。
 4)遺伝性オリーブ橋小脳萎縮症
  臨床症状はOPCAと区別できず、常染色体優性遺伝を示すことで区別する。一部の家系で第6染色体長腕に遺伝子座をもつ遺伝子のCAGリピートに異常伸長(SCAl)、第12染色体長腕に遺伝子座をもつ(SCA2)ことが明らかとなった。
 5)遺伝性皮質性小脳萎縮症
  常染色体優性遺伝を示す小脳変性症で頻度は稀である。症状は小脳性運動失調が前景に現れる。
 6)歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮(DRPLA)
  優性遺伝形式を示し、発病は小児から高齢者まで幅広く分布し、発病年齢こよって臨床症状が異なる。症状は、小脳性運動失調、ミオクローヌス、アテトーゼ、ジストニアなどの不随意運動、さらに知能障害を有する。
第12染色体短腕に遺伝子座をもつ遺伝子内のCAGリピートに異常伸長があれば診断は確定する。
 7)遺伝性痙性対麻痺
  南下肢の痙性麻痺を特徴とする遺伝性疾患であるが、孤発例もある。脊髄錐体路変性および後索変性が特徴である。
 8)Friedreich運動失調症
  幼少期発症(常染色体劣性遺伝)の脊髄性運動失調を主とし、凹足、脊柱側彎、拡張型心筋症等を合併することが多い。主要症候は下肢優位の後索症候で、眼振、Romberg徴候、深部腱反射の消失、バビンスキー徴候陽性、筋萎縮を伴う。

 

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