特集 介護保険元年
MEDICO VOL.31,No.3,2000より抜粋

介護保険と痴呆症

難波吉雄
東京大学大学院医学系研究科加齢医学講座

はじめに
 介護保険については、多くの資料が存在している。しかし、痴呆症に関する資料のみを集めたものは少ないと思われる。
そこで本稿では、主として厚生省が発表している資料で、痴呆に関係すると思われるものについてお示ししていくこととしたい。

1.認定調査

 まず、介護保険の受給を希望した場合、認定調査が行われる。
市町村の調査員や市町村から委託を受けた介護保健施設および指定居宅介護支援事業者等の介護支援専門員が訪問調査を行うものである。
その際、85項目にわたり心身の状況に関する調査を行い、一次判定がなされる。
この項目のなかでは、5−3居室の掃除、5−4薬の内服、5−5金銭の管理、5−6ひどい物忘れ、5−7周囲への無関心、6−3意志の伝達、6−4介護者への反応、6−5理解について、7問題行動、が痴呆に関係する項目である。
厚生省作成「認定調査票の記入方法」では、項目の定義、調査方法、調査上の留意点、選択肢の判断基準が示されている。
とりわけ痴呆と、 関係の深い5−6、6−5、7については、表1に選択肢と判断基準を示す。

2.アルツ八イマー病と脇血管性痴呆の診断基準

 介護保険と関係の深い痴呆症は、アルツハイマー病と脳血管性痴呆であろう。
両疾患とも、65歳以上の場合のみならず、40歳以上65歳未満においても特定疾病として要介護認定を受けることができる。
症状及び診断基準については、厚生省作成の「主治医意見書記入の手引き」および「特定疾患にかかる珍断基準」により示されている(表2、3)。

3.障害老人・痴呆性老人の判定基準

 この一次判定の結果および主治医の意見書をもとに、介護認定審査合による審査が行われ、二次判定がなされる。
主に医師が関与するのは、この主治医の意見書および介護認定審査会である。
主治医の意見書においては、痴呆に関する項目は3の「心身の状態に関する意見」欄の(1)から(4)である。
 第1番目の項目は、「日常生活の自立度について」である。
ここでは、現状から考えられる障害老人の日常生活自立度および痴呆性老人の日常生活自立度について、表4、5の判定基準をもとにチェックをする。
第2番目の項目は、理解および記憶である。
短期記憶については、例えば身近にある3つのものを見せて、一旦それをしまい、5分後に聞いてみるといった評価方法が記載されている。
 このほか、日常の意思決定を行うための認知能力、自分の意思の伝達能力、食事について記載するが、それぞれ判定の基準が示きれている(表6)。
第3番目は問題行動の有無(表7)、
第4番目は精神・神経症状の有無(表8)である。

おわりに

 モデル事業では、痴呆症状を有しながらも低い介護認定を受けた例が報告されている。このような例が生じないためには、ケアマネジャーの資質の向上とともに、介護保険認定審査会あるいは主治医の意見書等における医師の役割がますます重要になると思われる。
そのためにも、介護保険制度において痴呆症と関連の深い事項について精通することが必要である。

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